警察による被害者の氏名の発表について
犯罪被害者等基本法は犯罪被害者等基本計画を制定することを定めており、内閣府は、犯罪被害者等基本計画案(骨子)を公表しています。
この犯罪被害者等基本計画案(骨子)の中には、国民の知る権利を不当に制約しかねない条項があります。
問題なのは、犯罪被害者等基本計画案(骨子。以下「計画案」)は、Ⅱの第2の2「安全の確保」の中の「今後講じていく施策」(2)のエには、警察による被害者の氏名の発表について、実名とするか匿名とするかは「個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく」としている点です。
犯罪被害者のプライバシー権が重視されるべきことは当然ですが、反面、犯罪被害者の氏名は、犯罪の実態を正確に市民に伝え、犯罪捜査の適法性や妥当性を検証するというメディアの活動を行うために必要な基本的な情報でもあります。特に、警察による捜査は市民の人権侵害の危険性を常に伴うものですから、その捜査が適正になされたか否かは「権力に対する不信とチェック」を基本とする民主主義社会においては、非常に重要な市民の関心事項です。
また、事件とは常に流動的なものであり、「被害者」が実は「加害者」であったり、そもそも犯罪が存在しないという事案もあります。「被害者」が「被害者」であるということは、自明の前提ではなく、それ自体が検証されるべきであり、また、捜査と公判の過程を通じて確定されていくべき事実なのです。
このような観点からすると、警察に対し「被害者の氏名の発表について、実名とするか匿名とするかは「個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮」する根拠を与えることは、警察捜査の適正について検討するために必要な材料を提供するか否かの判断権を、検討の対象とされるべき警察の手に委ねることになり、おかしいことは明らかだと思います。
被害者の氏名を警察が公表しない場合、市民は警察による権力行使の適切性について検討する材料を失ってしまいます。反面、被害者のプライバシーについては、メディア側が実名報道をする際に慎重な検討をすることで十分に対処が可能です。
警察がメディアに対し被害者の氏名を公表することと、実際にメディアが被害者について実名報道するかどうかは、全く別の2つの問題です。後者については一次的にはメディアの判断に委ねるべきであり、犯罪被害者等基本計画案(骨子。以下「計画案」)は、Ⅱの第2の2「安全の確保」の中の「今後講じていく施策」(2)のエは修正されるべきであると考えます。
The comments to this entry are closed.
Comments
そろそろ更新してよ。楽しみにしてんだから。
Posted by: ぽん | October 17, 2005 09:20 PM