« 【続】小泉首相の靖国参拝はやっぱり違憲でしょう | Main | 【続々】小泉首相の靖国参拝はやっぱり違憲でしょう »

【論点整理】小泉首相の靖国参拝はやっぱり違憲でしょう

大阪高裁の靖国参拝違憲判決を受けて、ネット上で、小泉首相の靖国参拝反対派VS賛成派の激しいバトルが繰り広げられていますが、残念なことに、感情のぶつけ合いに終始していて、有益な議論がなされていないような気がします。

そこで、勝手に論点の整理を試みることにしました。

問題が混乱しているのは、以下のように、二元論的な構図に落ち込んでいるからではないかと思います。

<靖国参拝違憲派=大阪高裁判決支持派> 

<靖国参拝合憲派=大阪高裁判決批判派>

しかしながら、問題の構図はそう単純ではありません。本件に関する論点は、実は、2重の構造になっています。

第1の論点は、裁判所は、小泉首相の靖国参拝という政治的な論点について積極的に判断すべきか、それとも判断を差し控えて政治的な決着に委ねるべきか、という裁判所のありかたに関する論点です。
第2の論点は、現行憲法の解釈として小泉首相の靖国参拝は合憲か違憲かという法的な論点です。

この2つの論点が混同されているために、議論がかみ合わずに感情論になっているのだと考えます。
特に、第1の論点は、憲法学上、「司法積極主義」、「司法消極主義」と言われる論点ですが、このような論点が存在していること自体、あまりに知られていないような気がします。

以下に具体例を挙げて見ます。

① 「司法消極主義」を支持すれば、そもそも裁判所は政治的な判断を差し控えるべきという立場ですから、「靖国参拝違憲派」「靖国参拝合憲派」を問わず「大阪高裁判決批判派」になります。

② 「司法積極主義」を支持した場合、「靖国参拝違憲派」=「大阪高裁判決支持派」、「靖国参拝合憲派」=「大阪高裁判決批判派」という従来の分かりやすい構図になります。 

今のネットの議論を見ると、「司法積極主義」か「司法消極主義」という裁判所のあり方そのものに関する論点が存在していることが忘れられているような気もします。

さらに、第3の論点として、、小泉首相が靖国神社に参拝することが政治的に是か非かという論点を加えると、
②の「靖国参拝違憲派」=「大阪高裁判決賛成派」、「靖国参拝合憲派」=「大阪高裁判決反対派」という構図の中身も単純ではないことが分かります。

まず、「靖国参拝違憲派」=「大阪高裁判決賛成派」の中には、政治的に靖国神社参拝を支持している人も含まれます。憲法解釈と自分の政治的な価値判断を分ける立場ということになります。

次に、「靖国参拝合憲派」=「大阪高裁判決反対派」の中には、政治的な理由(アジア諸国との外交など)から反対する「靖国参拝反対派」も含まれます。

このような観点から、議論の整理をしてみると実りのある議論になるのではないでしょうか?

|

« 【続】小泉首相の靖国参拝はやっぱり違憲でしょう | Main | 【続々】小泉首相の靖国参拝はやっぱり違憲でしょう »

Comments

たしかに第1・第2の論点に分けて考えることはとても大事ですね。ただ、第1の論点に気づいている方もそこそこ居たとは思います。

ところで、第1の論点について、司法積極/消極主義だけでなく、憲法判断回避のルール(ブランダイス・ルール)、すなわち、「事件を処理することのできる他の理由が存在するならば、憲法問題には判断を下さない」というルールから今回の大阪高裁の判決方法を見た場合、どのようにお考えになりますか。

私は、靖国参拝の違憲性を判断せずとも慰謝料請求の棄却判決は出せたはずと考えます。そうであるなら、大阪高裁がわざわざ傍論で「違憲判断」をしたことは世の人々を惑わす裁判官の独り言にすぎないと思うのですが(事実、10/1辺りでは「違憲判決」と表現しているマスコミ多し)。

第2の論点については、私も違憲の疑いが非常に強いとは思います。

Posted by: すがり | October 21, 2005 09:52 PM

一つ疑問なのですが、
憲法第20条には『信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。』とありますよね。
この『何人』には内閣総理大臣は含まれないのでしょうか?例えば小泉首相がクリスチャンだとすると首相は教会に行ってはいけないのでしょうか?

Posted by: 青い炎 | October 21, 2005 10:52 PM

多忙な山口弁護士の代わりにお答えします。信教の自由は、当然、内閣総理大臣であっても保障されます。これが単なる内心の自由にとどまる場合、全く制約を受けることはありません(信仰の自由は、無制約と言ってよいでしょう)。ただ、信仰が外部的行為として顕在化した場合には,公共の福祉による制約、政教分離原則による制約等、いろいろ制約を受けるのです。「首相が教会に行ってはいけないのか」とのご質問については、完全な私的行為として行くのであれば自由です。公的行為として行くのであれば、政教分離原則に違反することになるかと思います。高裁判決が、私的行為か公的行為かを区別しているのは、そのためなのです。

Posted by: ぽん | October 21, 2005 11:23 PM

ぽんさん回答ありがとうございます。
>完全な私的行為として行くのであれば自由です。

だったら今回の靖国参拝は私的参拝と明言しているし、合憲ですよね。

Posted by: 青い炎 | October 21, 2005 11:41 PM

青い炎さん、私的行為であれば合憲だと思いますが、「私的行為」だと明言したから「私的行為」になるとは限りません。諸般の事情を考慮した上で、「私的行為」か「公的行為」かを認定していく必要があります(裁判でもそのように判断されます)。ちなみに、私は今回の参拝は公的行為だと思っています。

Posted by: ぽん | October 23, 2005 08:53 AM

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 【論点整理】小泉首相の靖国参拝はやっぱり違憲でしょう:

» 靖国神社 [凱旋門賞を制覇するまで]
小泉首相が靖国神社に参拝したらしい。この問題について,私の考えを整理しておこうと思う。 まず,今回の参拝が内閣総理大臣としての行為であるか否かが問題となる。私的行為であれば,彼の自由であるからだ。が,「①公用車で登場したこと,②平成13年の自民党総裁選で靖国参拝を公約したこと,③今回の参拝に先立ち,靖国神社側が,『歴代首相は例大祭中に参拝している』として,17~20日の秋季例大祭中に参拝するよう求めていたこと」等を考慮すれば,私的行為とはとても言えない。 で,政教分離に違反するかどうかであ... [Read More]

Tracked on October 21, 2005 10:59 PM

» 小泉総理と靖国神社参拝 [青い炎の日記]
もう少し靖国参拝問題を引っ張りたいと思います。私はこれまで主にメリットがあるから靖国参拝すべきだと書いてきましたが、別にメリットがなくても内閣総理大臣は靖国参拝を行う義務があると思います。これについて少し思うことを書きたいと思います。 19日の党首討論....... [Read More]

Tracked on October 23, 2005 08:26 PM

» 憲法は《不磨の大典》か? [本に溺れたい]
 比較憲法というと、英米独仏の憲法を引き合いに出して、日本の1946年憲法と比べ [Read More]

Tracked on November 04, 2005 01:42 AM

« 【続】小泉首相の靖国参拝はやっぱり違憲でしょう | Main | 【続々】小泉首相の靖国参拝はやっぱり違憲でしょう »