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小泉首相の靖国参拝はやっぱり違憲でしょう

 小泉首相は10月17日、就任以来5度目となる靖国神社参拝を行った。

 それに先立ち、2005年9月30日、大阪高等裁判所は、小泉首相による2001年から2003年にかけての3回の靖国神社に対する参拝行為について首相の職務としての公的性格を認定した上で、津地鎮祭事件最高裁大法廷判決の示した目的効果基準に従い、国が靖国神社を特別に支援しているかのような印象を与え、特定宗教を助長するような効果があったとの判断を示し、憲法20条3項の定める政教分離原則に違反して違憲であるとの判断を示しました。

 私は、法律家としてこの判断は当然の結論であると思いますが、ネットを見ていると、
 「傍論に法的根拠は不要。」
 「全くの個人的な感想で十分」
 「こんなものに何の実行力も、言ってしまえば意味すらない。」
 「判例ではない。」
 「請求棄却で国の勝訴。」
などの感情的な反発論が目立ちます。

 しかしながら、首相の靖国神社に対する参拝行為について政教分離原則に違反するとの司法判断は、決して今にはじまったものではなく、1990年代より繰り返してなされ定着しつつあるものです。

 まず、1985年の中曽根康弘首相の靖国神社公式参拝に関して福岡と大阪で訴訟が起こされ、1992年2月18日、福岡高裁は、首相が公式参拝を繰り返すならばそれは、靖国神社への「援助、助長、促進」となり違憲となることを指摘する判断を示しており、さらに、1992年7月30日、大阪高裁は、中曽根首相の行った公式参拝は一般人に与える効果、影響、社会通念から考えると宗教的活動に該当し、違憲の疑いが強いと判示しています。

 また、靖国神社にささげる玉ぐし料の公費支出と、天皇や首相らに靖国神社への公式参拝を求めた県議会の決議の合憲性が争われた「岩手靖国訴訟」においては、1991年1月10日の仙台高裁の判決は「天皇、首相の公式参拝は、目的が宗教的意義を持ち、特定の宗教への関心を呼び起こす行為である。憲法の政教分離原則に照らし、相当とされる限度を超えるものと判断せざるをえない」と明確に違憲との判断を示しています。

 さらに、靖国参拝の合憲性を論じる上で、無視することが出来ないのは、最高裁大法廷平成9年4月2日愛媛玉ぐし料事件判決です。この判決において、最高裁は明確に、「地方公共団体による靖国神社や護国神社への玉串料等の奉納が,たとえ相当数の者が望んでいるとしても,公共団体が特定の宗教団体に対して特別の関わりあいをもつことであり,宗教団体である靖国神社や護国神社が特別のものであるとの印象を一般に与えるものであるから,憲法が禁止する国家や公共団体の宗教活動にあたり違憲」であるとの判断を示し、愛媛県知事に対し、玉ぐし料として支出した金額を返還するように命じています。

 常識的に考えて、一国の首相が靖国神社を参拝する行為は、玉串料等の奉納よりも直接的に国家と靖国神社との関わりを顕示するものであり、その違憲性はより明らかであると思います。仮に、最高裁が靖国参拝について判断を示すことがあるとすれば、その結論は「憲法違反」以外にはありえないと思います。

 ちなみに、愛媛玉ぐし料判決は、住民が地方自治体の違法または不当な財務会計上の行為を問う住民訴訟(地方自治法242条の2)に対する判断でした。
 地方自治の場合とは違い、国家の違法または不当な財務会計上の行為を問うことを認める訴訟類型はありません。
 それゆえに、小泉首相については、「信教の自由」という権利が侵害されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起せざるを得ませんでした。
 「不法行為に基づく損害賠償請求訴訟」という枠組みで、勝訴するためには、①違法性、②故意・過失、③因果関係、④損害の発生 の4つのハードルをクリアしなくてはなりませんが、憲法20条3項の「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」と定めており、具体的な権利を保障していると解釈することは難しいので、「④損害の発生」の前提となる具体的な権利の侵害を認定させることは、解釈上かなり困難です。
 今回の大阪高裁判決も、①②は認めた訳ですが、④の損害の発生を認定することが出来なかったために、「請求棄却=原告敗訴」という結論を導かざるを得なかった訳です。①②に関する憲法違反の判断は、傍論ではなく、自らの判断の過程を判決文において示したに過ぎません。

 私がここに書いたことは、憲法に関する常識であり、別に高度な議論ではありません。小泉首相がそのことを分かっていない訳はないのです。
 要するに、小泉首相は、自らの靖国参拝行為について裁判所が「違憲(違法)」との判断を示し、最高裁判所も同様の判断を下すであろうことを知って確信犯的に参拝している訳です。そうでなければ、首相が昨日、平服で昇殿や記帳もしないなど「私的参拝」の色合いを強めたことが説明がつきません。

 なお、小泉首相を初めとする参拝賛成派は、靖国に参拝するのは過去の戦死者に敬意を表すためだと主張します。
 私も、過去の戦死者に国として敬意を表すこと自体は否定しませんし、むしろ、当然のことだと思います。
 しかしながら、何故、一宗教法人である靖国神社に参拝しなくてはならないのでしょうか?戦没者に敬意を表すためであれば政府主催の戦没者追悼式典を無宗教で行えば十分な筈です。
 首相は就任当初から、他の政治課題と並べて、靖国参拝を行うことを強調して来た以上、単なる戦没者追悼を超えた、隠された象徴的な意味合いがあることは明らかだと思います。
 その象徴的な意味合いこそ、一国の首相をして厚顔無恥にも憲法違反の行為を平然かつ堂々と繰り返させるに至ったものではないでしょうか?

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Comments

更新、待ってました。
正直、今回のご意見には全面的に賛成です。法曹であれば、ほとんどの人が同じように考えるでしょうね。今回の参拝では、服装を変えたり記帳しなかったりと小細工をしたようですが、その程度のことで「内閣総理大臣としての参拝」が「私的行為」になるはずもないんですけどね。ただ、感情的な面からのみ判決を批判する人は、戦争に対する歴史的評価や主権の問題等を持ち込んで議論しようとするから、話が全くかみ合わないみたいですね。違憲か否かとは本来、別問題なんですけどね。
今後も更新、期待しております。

Posted by: ぽん | October 19, 2005 at 10:19 AM

「公的」と「私的」の判別基準は何ですか?

常識的に考えて、一国の首相が靖国神社を参拝する行為は、玉串料等の奉納よりも直接的に国家と靖国神社との関わりを顕示するもの
→それが世間の「常識」と断定する根拠は何ですか?

Posted by: atropos | October 26, 2005 at 08:22 AM

専門家にしっかりと書いていただいて、嬉しい限りです。判例など一度も読んだことのない人びとが、「傍論だから、判決ではない」とか、挙句の果てには「傍論は法律で禁止すべきだ」とか書いています。ここは、しっかりと専門家が、誤解を解いておかないと、弁護士法の改正とかでとんでもないものが出てくる可能性もありますし、馬鹿な世論がそれを通してしまう恐れすらあります。なお、この間、日弁連を反日団体であると攻撃しているブログも見つけました。日弁連がどういう組織なのか、知らないのは明らかでしたが、こういう誤解を放置しておくと、本当に怖いと思います。

Posted by: よいよい | November 06, 2005 at 01:59 AM

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