【人質司法】杉浦法相、保釈制度改善に意欲
杉浦法相は24日、日本記者クラブで会見し、現在の保釈制度について「刑事訴訟法上、保釈は(被告の)権利だが、裁判所はなかなか(拘置所の外に)出したがらない。例外と原則が逆転している」と批判。「人質司法と言われた雪を溶かすためにも、体制整備が必要だ」と述べた。「人質司法」という言葉は、逮捕、勾留(こうりゅう)によって自白を得ようとし、否認すれば長期間、保釈を認めない今の司法のあり方を批判する意味で使われる。
法相は、具体策として、拘置所の外に出しても証人に働きかけるなどの証拠隠滅を図らないようにするため、自宅拘禁や海外渡航禁止といった制度の導入を挙げた。
法相は26日の法制審議会に、こうした保釈制度改革や、社会奉仕命令など「代替刑」の創設などを諮問する。
朝日新聞 2006年07月24日21時28分
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保釈制度の改革に法務省がようやく重い腰を上げたことは、刑事実務家としては大歓迎です。
しかしながら、人質司法の原因を裁判所に全て押し付けるような発言には大いに疑問があります。
現在の裁判所が保釈について消極的なのは事実ですが、ここまで裁判所を萎縮させてしまった背景には、検察官がやみくもに保釈反対の意見を述べ、あるいは、不服申し立て(準抗告、抗告あるいは異議)を乱発するという実情があるという点を是非とも正面から見据えて欲しいと思います。
刑事訴訟法89条は、「保釈の請求があつたときは左の場合を除いては、これを許さなければならない。」として、原則として保釈しなくてはならないことを定めていますが、一方で、1号から6号において例外が規定され、原則と例外が逆転しているのが実情です。
① 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
② 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮にあたる罪につき有罪の宣告を受 けたことがあるとき。
③ 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮にあたる罪を犯したものであるとき。
④ 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑤ 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは 財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑥ 被告人の氏名又は住居が判らないとき。
特に問題が多いのが、④の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」です。黙秘権を行使していたり、否認していたりすると、まず、④を理由として保釈が認められません。保釈欲しさに偽りの自白をしてしまうという現象が生じるゆえんです。
ついでに言えば、保釈の判断に関する実体面だけではなく、実際の保釈手続きの面も改善して欲しいです。
例えば、裁判所は、捜査機関による令状請求については年中無休で受け付けるのに、保釈については、平日の昼間しか受け付けませんし、年末年始も保釈手続きを受け付けません。
また、保釈の請求があった場合、裁判所は検察官の意見を聞きますが(「求意見」といいます)、検察官の意見が遅れて、判断が長引く場合もままあります。
身柄の不拘束が大原則という刑事訴訟法の原点に立ち戻った、改革がなされることを強く希望します。