橋下弁護士を提訴へ 光母子で「懲戒呼び掛け」
山口県光市・母子殺害事件で、被告の元少年(26)の弁護士が27日、タレントとしても活動する橋下徹弁護士にテレビ番組の発言で業務を妨害されたとして、損害賠償を求める訴えを広島地裁に起こす方針を明らかにした。
原告は広島弁護士会の今枝仁、足立修一の両弁護士で、1人当たり100万円を求める。さらに数人が加わり、9月3日に提訴する予定。
今枝弁護士によると、橋下弁護士は5月に大阪のテレビ番組に出演した際、弁護団の懲戒処分を弁護士会に求めるよう視聴者に呼び掛けたとしている。
所属する芸能事務所によると、橋下弁護士は「提訴された場合はきちんと対応する」と話しているという。
母子殺害事件をめぐっては、弁護士への脅迫文が日弁連や新聞社に届いたことが明らかになっている。
2007/08/27 21:50 【共同通信】
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被告人に奥さんと子どもを奪われた本村洋さんが憤りの気持ちを表明したくなるのは、当然のことです。
しかしながら、事件の記録も読んでいない外野の人々が、職務を遂行している弁護人に対する感情的なバッシングと懲戒請求を乱発する行為は、とても、成熟した法治国家の市民の行動とは思えません。その背景にあるのが、橋本徹弁護士の発言であるとすらならば(以下の論述はこれを事実であると仮定した上で展開します)、橋本徹弁護士は責任を追及されて当然でしょう。
平成19年4月24日の最高裁判所の判決は、懲戒請求をする者に対して、「懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成する」とはっきりと判示しています。
その前提として、懲戒請求をする者に対し、「懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように,対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査,検討をすべき義務を負うものというべきである」という調査義務を課していますが、橋本徹弁護士の言葉を信用したというだけでは、とうてい、調査義務を尽くしたとは認められないでしょう。
要するに、橋本徹弁護士の言葉に踊らされた方々の多くは、不法行為に加担している可能性がある訳です。懲戒請求が不法行為になりうることを明確にした最高裁判例の存在を説明せずに、懲戒請求を乱発するように煽った橋本徹弁護士の言動こそが問題にされるべきであると思いますし、この点について裁判所ははっきりとした判断を是非とも示して欲しいものです。
※以下、光市母子殺人事件の弁護団の弁護活動(特に意見陳述について)についての私見を述べます。
私は、記録を読んでおりませんし、当の弁護団員から言い分を聞いたものではなく、私の推測的な意見が含まれていることを前提の上でお読み下さい。(なお、これは弁護人になった弁護士本人しか分からないし、弁護士には守秘義務があるので、調べようがありません。)
弁護団は、事実を調査し、法医学、心理学、精神医学等の専門家の意見を聞き、解明することができた事実と考えるところを述べたものであり、弁護人として、当然の義務を尽くしただけのことであると思います。弁護側が申請した証人は、弁護側の意見陳述に沿った証言をしているようですから、この点はなおさらでしょう。むしろ、自らの信ずるところを裁判所に明らかにしなかったとしたら、反対に、弁護過誤の謗りを免れないと思います。「事実は小説より奇なり」という言葉は、民事、刑事を問わず裁判実務に携わるものであれば、実感のある言葉だと思います。(◎補足あり)
意見陳述の内容が、神がかりの話か否か、あるいは荒唐無稽かどうかは、まさに、事実認定の問題であり、証拠上認めることが出来ないというのであれば、裁判所がこれを排斥すれば、足りるだけの話であると考えます。何故、一方当事者であり、被告人の権利を擁護すべき、弁護人が裁判所の結論を先取りしなくてはならないのでしょうか?
「ボランティアのような形として、死刑制度を廃止するための活動の一環として自ら進んで動いている。自らの主張のために裁判を利用しようという考えは絶対に許すことができません。」というご意見をお持ちの方々もおいでのようですが、具体的な根拠がよく分かりません。
弁護活動は弁護活動で、目の前にいる被告人の権利(この場合には生きる権利)を最大限度擁護するためのものであり、それ以上でも、それ以下でもないでしょう。
同業者びいきと言われるかも知れませんが、21人もの弁護士がなぜ手弁当(多分)で頑張っているかと言えば、裁判所、検察官、弁護人(第一審、控訴審を担当した)が真実の追究を怠った結果として、地裁・高裁・最高裁において誤った事実認定を前提として裁判が行われてきたことを座して見逃すことができなかったからではないでしょうか。
なお、差し戻し控訴審において、これまでと異なった事実を主張することに対する批判も存在するようですが、刑事訴訟法392条、393条は、実体的な真実解明のための職権調査を行う権限を控訴審の裁判所に認めています。弁護団の意見は、この職権を発動するように促しているだけのことですから、刑事訴訟法上、何ら問題はないと思います。
◎補足
証拠があろうとなかろうと、被告人の弁解に付き合わなくてはならないのが、弁護人です。
被告人の意思に沿わない弁護活動を行うと、逆に懲戒されることになりかねません。
例外的に、被告人にとって、有利な方向で意思に沿わない弁護をすることは許されます。例えば、身代わり犯人の事案において、被告人が有罪を主張しているにもかかわらず無罪を主張することは許されます。
<追記!>
橋下弁護士 母子殺害弁護団からの賠償訴訟で反論会見
「被害者」や「社会」という言葉を使っていますが、世論、多数意見に迎合しているとしか思えません。
ところで、同業者のことを「チンカス」、「カルト集団」呼ばわりしたことについての弁明はないんでしょうか?こっちの方が、確実に弁護士としての品位を害しますし、懲戒に値すると思いますが。