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【閑話休題】当番弁護士と出動したら、「海賊」と接見する日が来るのか?

重大犯罪では日本に移送=海賊逮捕の場合-海保

 ソマリア沖の海賊対策で、海上保安庁は捜査隊員8人を海上自衛隊の護衛艦に同乗させた。司法警察員として、海賊を拘束した場合の捜査手続きに当たる。
 海保は、海賊の襲撃を受け、日本人が重傷を負ったり死亡したりした重大犯罪の場合、海賊を日本に移送して立件する方針。容疑者は護衛艦のヘリコプターなどでいったんイエメンなどの近隣国に運び、その後、民間機などで日本に移送する方向だ。

時事通信(2009/03/30-19:22)
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日本に移送して立件するということは、当然、弁護士が必要になる訳です。
ガラス板越しに、海賊さんとお目にかかる日が来るのでしょうか?

立件と言いますが、日本の刑事訴訟法は身柄拘束のための時間制限がとても厳格です。
現行犯逮捕したとして、警察(含む海上保安庁)レベルで身柄を拘束できるのは48時間・・・。
48時間以内に身柄つきで送検をしなくてはなりません。送検された検察官は24時間以内に勾留請求をして裁判官から勾留状を発布してもらわなくてはなりません。

ソマリア沖から日本まで間に合うのでしょうか?
刑事訴訟法206条は、「やむを得ない事情」がある場合には、例外を認めてはいますが(※)、ソマリア案件について毎回「やむを得ない事情」があると認められるでしょうか?もし、「やむを得ない事情」が認められなければ、釈放することになりますが、どうやって釈放するのでしょうか・・・。

(※)熊本で逮捕した被疑者を旭川まで護送するのに51時間かかったことについて、「やむを得ない事情」として認めた裁判例がありますが(旭川地方裁判所昭和42年5月13日決定)、捜査機関の都合ではダメで客観的な事情が必要なので、弁護人の立場から争うことは色々とありそうです。

(参考条文:とっても重要な条文です。)
第203条  司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
○2  前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。
○3  司法警察員は、第37条の2第1項に規定する事件について第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第37条の3第2項の規定により第31条の2第1項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
○4  第1項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

第204条  検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○2  検察官は、第37条の2第1項に規定する事件について前項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第37条の3第2項の規定により第31条の2第1項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
3  第1項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
4  前条第2項の規定は、第1項の場合にこれを準用する。

第205条  検察官は、第203条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
○2  前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から72時間を超えることができない。
○3  前2項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○4  第1項及び第2項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○5  前条第二項の規定は、検察官が、第37条の2第1項に規定する事件以外の事件について逮捕され、第203条の規定により同項に規定する事件について送致された被疑者に対し、第1項の規定により弁解の機会を与える場合についてこれを準用する。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。

第206条  検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて前3条の時間の制限に従うことができなかつたときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留を請求することができる。
○2  前項の請求を受けた裁判官は、その遅延がやむを得ない事由に基く正当なものであると認める場合でなければ、勾留状を発することができない。

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【日本脱カルト協会】カルト予防と大学の責任【JSCPR】

公開講座「予防と大学の責任」

日時: 2009年3月28日土曜日13:00-17:00(12:30 開場)
会場: 北海道大学学術交流会館
(札幌市北区北7条西4丁目、札幌駅北口より徒歩5分)
地図

パンフレット⇒頒布にご協力下さい

参加申し込み等: 当日受付、資料代1000円(学生聴講無料)

講演
「大学のカルト問題」-櫻井義秀
「若者とカルト・カウンセリング」-パスカル・ズィヴィ
「カルト(統一協会)の勧誘方法は憲法違反」-郷路征記
パネルディスカッション―「カルトの勧誘から学生たちを守るために」

<講演者・司会紹介>
櫻井義秀―宗教社会学者(北海道大学)
パスカル・ズィヴィ―カウンセラー(マインド・コントロール研究所)
郷路征記―弁護士(郷路法律事務所)
西田公昭―社会心理学者(静岡県立大学)
平野学―臨床心理士・カウンセラー(慶応大学)

主催:日本脱カルト協会

後援:日本学生相談学会、北海道大学学生相談室

 いずれのパネリストもその道の第一人者の方々ばかりですが、特に、同業者として言わせて頂ければ、郷路征記弁護士は、統一協会問題の第一人者であり、特に、「気が付かない間に」統一協会信者に「させられていく」プロセス(マインドコントロールと呼んでも良い)について、非常に深い分析をされている方です。統一協会問題にある人にとって、話を聞いて損には絶対になりません。

【関連記事】
カルト宗教から大学生を守れ 45大学が立ち上がる

 カルト宗教から大学生を守ろうと、大学職員やカルト問題を専門に研究する教授らが今月中旬、キャンパス内の勧誘情報を交換するネットワークを立ち上げる。大学を横断するカルト対策は初めてだという。これまでに45大学の計50人が参加を表明。勧誘が盛んになる入学シーズンを前に、ネットワークによる情報共有で、カルト宗教による学生の被害を防ぐのが狙いだ。

 「カルトは姿を隠して近づいてくる。対策には情報戦が不可欠」。発起人の川島堅二・恵泉女学園大学教授はこう話す。
 カルト問題を研究する「日本脱カルト協会」によると、カルト宗教は本来の名称や目的を隠したサークルで、「大学生活について先輩から話を聞こう」「就職に向けて自己分析をしよう」などと学生を勧誘。正体を明かさぬまま、ノルマを課した物販や新規勧誘に駆り出したり、親密になった後に「辞めると不幸になる」と脅して入信させ、お布施を強要するなどしているという。

 過去には警察当局の調べで、オウム真理教が偽装サークルで学生を勧誘していた事例が判明。同協会関係者には、カルト入信者の家族から寄せられる脱会相談が現在も絶えないという。

 これまでは、各大学ごとにカルトをテーマにした講習会や討論会で注意を喚起してきたが、川島教授らは「彼らは多くの大学で同じ名前や手口で活動している。情報の共有でみえてくることがある」として、入学シーズンを前に取り組みを始めることにした。

参加者は大学の教員や学生課職員、カウンセラーなど。メーリングリストに登録し、学生から寄せられる偽装サークルや、いかがわしい勧誘の情報を電子メールで一斉に送受信する。必要に応じ、カルト問題を研究している教授が勧誘の断り方や脱会方法をアドバイスするほか、新入生にオリエンテーションなどで注意を促すとしている。

 「カルトの線引き」や「信教の自由との兼ね合い」などを課題として指摘する声もあるが、川島教授は「うそをついて勧誘するのは、そもそも詐欺行為。活動にどっぷり漬かると本分である学業を全うできなくなることが多い。学生を守るのは大学側の社会的、教育的な責任」と話している。
(2009.3.1 産経新聞)
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カルト=宗教に限定されるものではありません。
いわゆる極左、極右の政治団体の中には、政治カルトとしか考えようがないものが存在しますし、いわゆるネットワークビジネス(マルチ商法)の中にも経済カルトの名前にふさわしい団体が存在します。
「宗教ではない」≒「カルトではない」なのです。
当然、キャンパス内において正体を隠した勧誘をしている団体には、「カルト宗教」以外の「カルト」も存在します。

議論を簡単にするために、いわゆる「宗教」に絞った議論をしますが、私は、信教の自由との関係が問題になりますが、むしろ、最低限度のインフォームドコンセント(※1)を行わない布教/勧誘活動は、逆に、被勧誘者の信教の自由を侵害するものであると考えています。

宗教上の教義には、非信者にとって不合理的、非科学的、あるいは、非理性的としか思えませんが、信者にとっては深い確信、あるいは、普遍的な真理となっているものがあります。不合理的あるいは非科学的な確信である以上は、論理的、あるいは、客観的に批判的な検証をして誤りを明らかにすることも困難です。

しかも、宗教の中には、教義について疑い、あるいは、教義から離脱を図ること自体が宗教上の「罪悪」であるという教義を内包している可能性もあります。この場合、教義そのものが、教義からの離脱を阻む作用を果たします。

そして、宗教上の信仰の選択は、人生そのものに決定的かつ取り返しのつかない影響を与える可能性もあります。

そうすると、少なくとも、被勧誘者に対して、宗教上の教義について意識的・批判的に検討する機会を与えずに、布教、あるいは、勧誘を行うことは、被勧誘者の信教の自由、思想・良心の自由に対する潜在的な侵害行為ではないかと、私は考えています。

要するに、一度、宗教を信じてしまうと、抜け出すことは困難なのです。私は、宗教が人間社会において果たしている多くのポジティヴな役割を否定するものではありませんし、信仰を持つことにより、豊かな人生を送られている方々もたくさん知っています。
が、一方で、信仰を持つということは、不合理・非科学的な確信、あるいは、「真理」に全面的に人生を委ねるという側面があることは否定できない以上、布教・勧誘に際し、最低限度の情報開示すらしない布教・勧誘活動は好ましくないという域を超え、社会的にも、道徳的にも許されるべきではないと考えています。


(※1)最低5点は必要ではないかと
①教団名
②基本的な教義
③信者としての基本的な戒律・義務
④信者の生活の実態
⑤一般的な社会生活(在学→卒業→就職)を行う上での支障

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