ご存じのとおり、青少年健全育成条例の改正案は継続審議となり、6月からの定例都議会で議論が進められることになりました。
6月からの定例都議会が始まるのは、6月1日からです。早ければ、6月15日には何らかの形で結論が出てしまいます。
あと、2箇月弱。東京都は何をしているのでしょうか。市民や有識者からの猛反発を受けて、条例案の手直しにいそしんでいるのでしょうか。それとも、条例案を撤回することを検討しているのでしょうか?いいえ、違います。東京都は、今、マスコミや政党を中心に「条例案についての誤解」を解くために、水面下で動いています。
東京都の言い分はこのようなものです。
不健全図書の新たなカテゴリとして、第8条第1項第2号として、
「二 販売され、若しくは頒布され、又は閲 覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第七条第二号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあ ると認められるもの」
という条文を付け加えるだけだから、
漫画等の設定において明らかに18歳未満の青少年の性交又は性交類似行為を描いたもので、みだりに性的対象として肯定的に描写したもののうち、強姦等著しく悪質なもの
を規制するだけであり、青少年の性を取り上げた作品一般が規制の対象になるわけではない
というものです。規制を不健全図書指定という観点から見た場合には、東京都の言い分は嘘とまでは言えません。
しかしながら、東京都の意図が説明通りのものだとすれば、第8条第1項第2号を追加する旨の条例案を提出すれば、済む筈です。
今回の改正案のポイントは、規制推進派に表現狩りを正当化するための法的な根拠を与え、東京都は、規制推進派による「市民運動」の背後に隠れて、責任逃れを図ることを可能にする点にあります。
今回の改正案によれば、自主規制が要求される表現は以下のようなものです。漫画等の設定において明らかに18歳未満の青少年の性交又は性交類似行為を描いたもので、みだりに性的対象として肯定的に描写したもののうち、強姦等著しく悪質なものに限定されないことに留意すべきです。
(図書類等の販売等及び興行の自主規制)
第七条(第1項本文略)
一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
二 年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以 下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
(表示図書類の販売等の制限)
第九条の二(第1項本文略)
一 第八条第一項第一号の東京都規則で定める基準 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
二 第八条第一項第二号の東京都規則で定める基準 非実在青少年を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚 により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な 成長を阻害するおそれがあるもの
これらの自主規制に違反したとしても、法律上の罰則はありません。ただし、官製「悪書追放運動」による批判、圧力にさらされることになります。根拠となる条文は、太字斜線部です。この悪書追放運動は、行政からの手厚いバックアップを受けて展開されることになります。このような運動を支援することは、東京都の義務になるのです。そして、規制推進派は東京都の「お墨付き」を得た上で、表現活動を弾圧することが可能になるのです。
(児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた都の責務)
第 十八条の六の二 都は、児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二条第三項に規 定する児童ポルノをいう。以下同じ。)を根絶すべきことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努めるとともに、事業者及び都民と連携 し、児童ポルノを根絶するための環境の整備に努める責務を有する。
2 都は、青少年性的視覚描写物(第七条各号に該当する図書類又は映画等のうち 当該図書類又は映画等において青少年が性的対象として扱われているもの及び第十八条の六の五第一項の図書類又は映画等をいう。以下同じ。)をまん延させる ことにより青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努めるとともに、事業者及び都民と運携し、青少年性的視覚描写物を青少年が容易に閲覧又は観覧することのないように、そのまん延を抑止するための環境の整備に努める責務を有す る。
3 (略)
4 都は、事業者及び都民による児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延の抑止に向けた活動に対し、支援及び協力を行うように努めるものとする。
そして、その官製「悪書追放運動」の矛先は、事業者だけではなく、個々の都民にも向けられることにもなりかねません。何故ならば、事業者ではない都民も、
(児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた都民等の責務)
第十八条の六の四 何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する。
2 都民は、都が実施する児童ポルノの根絶に関する施策に協力するように努めるものとする。
3 都民は、青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて理解を深め、青少年性的視覚描写物が青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するおそれがあることに留意し、青少年が容易にこれを閲覧又は観覧することのないように努めるものとする。
という義務を負うからです。
今回の条例が可決されてしまうと、出版社、書店やコンビニ等は、常に、官製「悪書追放運動」の影に怯えなくてはならなくなります。余程の気骨のある出版社以外は、青少年と性をテーマにした作品を取り扱わなくなるでしょう。東京都は自らの手を汚さずして、表現規制を行うことが可能になるのです。