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大学におけるカルト対策の正当性と必要性を認めた佐賀大学事件判決

佐賀大学事件判決(平成26年4月25日言渡)について

文責:弁護士 山 口 貴 士

※意見、見解は全て私個人のものであり、佐賀大学の意見とは関係ありません。

1 当事者
原告A:佐賀大学の女子学生(現在は卒業、被告Yの元ゼミ生)
原告B:原告Aの父
原告C:原告Aの母
被告佐賀大学
被告Y:佐賀大学の男性准教授

※ 原告A、B、Cはいずれも、現役の統一協会信者。

2 事案の概要
被告Yが、平成24年2月10日、原告Aに対し、その信仰を侮蔑、侮辱する発言をする発言を繰り返しながら「原理教なんてやめるべき。」などと述べ、また、原告Bと原告Cが統一協会の合同結婚式を通じて結婚したことについて「おかしい結婚」、「犬猫の結婚」などと述べたという事案。

原告Aは、被告Yの発言が、原告Aの信仰の自由及び名誉感情を侵害したとして、原告Aにおいて、被告Yに対し、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料等を請求し、佐賀大学に対しては、主位的には使用者責任に基づく損害賠償、予備的には国家賠償に基づく損害賠償を請求した。

原告B、Cは、被告Yの発言により、名誉感情を侵害されたとして、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料等を請求し、佐賀大学に対しては、主位的には使用者責任に基づく損害賠償、予備的には国家賠償に基づく損害賠償を請求した。

3 請求金額/認容額
原告A:請求額220万円(認容額4万4000円)
原告B、C:請求額各110万円(認容額各2万2000円)
佐賀大学に対する関係で、いずれも、請求額の2%を認容。
被告Yに対する請求は棄却した(国家賠償)。

4 被告Yの発言の違法性に関する判示事項
「前記争いのない事実(1)(2)(4)及び認定事実(20)によれば、被告Yの本件発言は、被告佐賀大学の准教授であった被告Yが、被告佐賀大学内の被告Yの研究室内で被告佐賀大学3年生であり、被告Yの担当するゼミのゼミ生であった原告Aに対してなされたものである。また、一般に、大学は、学生に対し、在学契約に基づき、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を享受研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させる(学校教育法83条1項)という大学の目的にかなった教育役務を提供する義務があるところ、その前提として、学生が教育を受けることができる環境を整える義務を負い、在学契約に付随して、大学における教育及びこれに密接に関連する生活関係において、学生の生命、身体、精神、財産、信教の自由等の権利を守るべき安全配慮義務を負っていると解される。そして、前記認定事実(2)(3)(5)(9)によれば、被告佐賀大学は、学生に対する安全教育の一環として、正体を隠し、あるいは情報開示が不十分な勧誘活動を行うカルト的団体からの勧誘や被害にあった場合や、そのような活動を行っている者を見かけた場合は、速やかに学生生活課に知らせることなどの注意喚起を行っており、前記認定事実(4)(6)(9)(10)(16)ないし(18)によれば、被告佐賀大学を含む多数の大学では、CARP及び統一協会をカルト的団体として把握していることが認められる。そして、前記認定事実(19)(20)によれば、被告Yは、原理教に関して、原告Aと深く話し合いたいとして、統一教会や合同結婚式を批判するなどの各発言に及んでいることが認められる。以上によれば、被告Yの本件発言は、被告佐賀大学の学生に対する安全教育の一環として、カルト的団体からの勧誘や被害にあった場合に関する相談として、客観的に職務執行の外形を備える行為であったと認めるのが相当である。したがって、本件各発言は、被告Yが『その職務を行うことについて』したものと認められる。」(判決文16、17頁)

「被告Yは、(中略)、統一協会の教義を信仰することをやめないと言っている原告Aに対して、それを辞めるように、『犬猫の暮らし』、『犬猫の教え』などと配慮を欠いた不適切な表現を繰り返し用いたものであって、原告Aの信仰の自由を侵害するものと評価するのが相当である」(判決文18頁)

「また、被告Yは、(中略)、などと統一協会の教義等に対する批判に留まらず、統一協会の教義を信仰している原告らを『犬猫の結婚』、『犬猫の生活』、『犬猫の暮らし』などと配慮を欠いた不適切な表現を繰り返し用いたものであって、原告Aの名誉感情を侵害したものと評価するのが相当である」(判決文18頁)

統一協会やその信者が、霊感商法等の社会問題を起こし、多数の民事事件及び刑事事件で当事者となり、その違法性や責任が認定された判決が多数あることは公知の事実であること、被告Yが特定の宗教の教義等について意見を述べることは信教の自由として許容されること、被告Yは、被告佐賀大学の教員として、大学における教育及びこれに密接に関連する生活関係において、学生の生命、身体、精神、財産、信教の自由等の件を守るべき安全配慮義務を負っていると解されることに鑑みると、被告Yが、統一協会の教義等について、適切な表現を用いる限りにおいて批判的な意見を述べることは、社会的相当性を有する行為であ」る(判決21頁)
※ 「公知の事実」=立証不要な事実。

(コメント)
1)裁判所は、佐賀大学によるカルト対策の必要性、適法性を前提とした上で、被告Yが原告Aを呼び出して、統一協会の信仰を辞めるように話をしたこと、統一協会の教義を批判する話をしたこと自体を問題にすることなく、あくまでも被告Yが「配慮を欠いた不適切な表現を繰り返し用いた」ことに違法性を認定している。判決は、被告Yの不適切さ(違法性)を認定し、その限度で国家賠償を認めたものに過ぎず、被告Yの発言内容が穏当(適法)なものであれば、被告Yが原告Aを呼び出して、統一協会の信仰を辞めるように話をしたこと、統一協会の教義を批判する話をしたこと自体は適法行為であり、佐賀大学の責任が問題にされる余地はなかった。

→ 大学側に、学生の生命、身体、精神、財産、信教の自由等の権利を守るべき安全配慮義務を認め、大学のカルト対策の必要性、適法性を正面から認めたものと評価出来る。

→ 個々の教員が、統一協会の教義について、「適切な表現を用いる限りにおいて批判的な意見を述べること」は社会的相当性を有する行為(適法行為)であると認めたものと評価出来る

2)国家賠償は、「客観的に職務執行の外形を備える行為」について認められる。本判決は、あくまでも、「客観的に職務執行の外形を備える行為であったと認めるのが相当」と認定しているものであり、問題となった被告Yの言動が「被告佐賀大学の学生に対する安全教育の一環として、カルト的団体からの勧誘や被害にあった場合に関する相談」に該当すると認定したものではない。

3)国家賠償法1条1項が適用された以上、裁判所としては、被告Yの行為の違法性を認めた場合には、佐賀大学に損害賠償を命じ、被告Y個人に対する損害賠償請求を否定する判決を書くしかない(使用者責任とは違い、佐賀大学に免責の余地なし)。

4)大学の業務の実態を踏まえれば、国家賠償法ではなく、民法上の使用者責任の枠組みで判断されるべき事案ではないか(私見)

4 慰謝料を大幅に減額した理由について
「原告Aが学生生活課での会話や被告Yとの会話を、度重ねて秘密裏に録音した行為は、前記CARPの促進していた、大学のカルト対策に対する情報収集活動の一環と見るのが相当である。」(判決文20頁)

「また、前記認定事実(14)(15)(19)によれば、原告Aは、被告Yにおいて、統一協会の教義や合同結婚式を否定し、原告らが統一協会の教義を信仰することをやめるように説得することを十分予見した上で、平成24年2月10日に被告Yの研究室を訪問したと推認することが相当である。」(同)

「そして、前記認定事実(20)のとおり、原告Aは、本件発言が行われた平成24年2月10日の被告Yとの会話を最初から録音していることからすれば、原告Aは、被告Yにより宗教を理由にしたパワハラあるいはアカハラ的な発言がなされるなど、被告佐賀大学によるCARPや統一協会に対するカルト対策を攻撃するための材料を得ることを目的として、同日、被告Yと面談し、本件発言を含む被告Yの発言を録音したものと推認するのが相当である。」(判決文20、21頁)

「本件発言によって原告Aが被った精神的苦痛は、さほど大きいものとはいえない。」(判決文21頁)

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Comments

 山口さんの<大学におけるカルト対策の正当性と必要性を認めた佐賀大学事件判決>について、私の火の粉ブログで批判しました。

 記事に間違いなどがあれば、ご連絡ください。修正ないし削除いたしますので。
 よろしくお願いいたします。 

Posted by: 米本 | May 31, 2014 at 11:17 AM

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Posted by: Free Music Downloads | April 03, 2015 at 01:36 PM

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