佐賀大学事件、福岡高裁も大学におけるカルト対策の正当性と必要性を認めてくれました。
佐賀大学事件控訴審判決(福岡高等裁判所平成27年4月20日判決)について
文責:弁護士 山 口 貴 士
※意見、見解は全て私個人のものであり、佐賀大学の意見とは関係ありません。
事案の概要 → 大学におけるカルト対策の正当性と必要性を認めた佐賀大学事件判決
をご参照下さい。
※ 一審判決は、国家賠償請求に基づき、「一審被告Y:佐賀大学の男性准教授」の責任を否定しており、一審原告らも准教授に対する関係では控訴をしていないので、准教授は控訴審の当事者になっていません。
<主文>
1(1) 一審被告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(2) 一審被告は,一審原告Aに対し,4万4000円及びこれに対する平成24年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 一審被告は,一審原告Bに対し,2万2000円及びこれに対する平成24年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 一審被告は,一審原告Cに対し,2万2000円及びこれに対する平成24年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 一審原告らの控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1・2審を通じてこれを50分し,その1を一審被告の負担とし,その余は一審原告らの負担とする。
4 この判決は,主文1項(2)ないし(4)に限り,仮に執行することができる。
※ 請求金額の2%を認容。
※ 実質的には一審判決維持。主文で変更されたのは、元学生の父親(一審原告B)についての遅延損害金の起算日(不法行為日)だけ。起算点が後ろにずれている分、損害額は僅かながら減額。
また、一般に、大学は、学生に対し、在学契約に基づき、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を享受研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させる(学校教育法83条1項)という大学の目的にかなった教育役務を提供する義務があるところ、その前提として、学生が教育を受けることができる環境を整える義務を負い、在学契約に付随して、大学における教育及びこれに密接に関連する生活関係において、学生の生命、身体、精神、財産、信教の自由等の権利を守るべき安全配慮義務を負っていると解される(原審判決18頁)。
という学生の信教の自由に対する安全配慮義務を大学に認めた一審判決の判断は変更されず、
統一協会やその信者が、霊感商法等の社会問題を起こし、多数の民事事件及び刑事事件で当事者となり、その違法性や責任が認定された判決が多数あることは公知の事実であること、被告Yが特定の宗教の教義等について意見を述べることは信教の自由として許容されること、被告Yは、被告佐賀大学の教員として、大学における教育及びこれに密接に関連する生活関係において、学生の生命、身体、精神、財産、信教の自由等の件を守るべき安全配慮義務を負っていると解されることに鑑みると、被告Yが、統一協会の教義等について、適切な表現を用いる限りにおいて批判的な意見を述べることは、社会的相当性を有する行為である(原審判決21頁)
※ 「公知の事実」=立証不要な事実。
という、個々の教員が、統一協会の教義について、「適切な表現を用いる限りにおいて批判的な意見を述べること」は社会的相当性を有する行為(適法行為)であると認めたものと評価出来る判断が維持されたことは喜ばしいところです。
ちょっと、面白いのは、控訴審判決が男性准教授の発言の違法性を認めつつも、請求額の2%という非常に低い慰謝料額しか認めなかった根拠について原審判決よりも詳しく認定したことです。佐賀大学側は、危険への接近、被害者の承諾を理由とする違法性阻却を主張しましたが、この点は認められませんでした。この点は、残念です。
他方、前記認定事実(17)のとおり、平成24年1月31日発行の「大学の宗教迫害」と題する本には、一審原告らの訴訟代理人である福本弁護士が、大学の「カルト対策」絡みのアカハラ等を止めさせるには、できるだけ有利な案件を選定し、学生だけでなく保護者の賛同を得た上で、加害者の教職員及び使用者責任を負うべき大学を被告にして訴訟を提起することが最も効果的であり、これによって他大学への波及効果も期待できる、という趣旨の発言をしたことが記載されているところ、本件訴訟の当事者及び請求の形態は上記の福本弁護士の発言内容に符合するものである。そして、一審原告Aは、原審本人尋問において、上記本を購入し閲読したことを認めているところ、その閲読した時期や内容について曖昧な内容の供述をしていることに照らせば、少なくとも本件会話のされた平成24年2月10日以前に、上記本を閲読し福本弁護士の発言内容を認識していたものと推認するのが相当である(控訴審判決文15、16頁)。
原告Aが、学生生活課での会話や被告森との会話を度重ねて秘密裏に録音した行為は、前記W-CARPが促進していた、大学のカルト対策に対する組織的な情報収集の一環と見るのが相当である(原審判決文20頁、控訴審判決文15頁)。
原告Aは、被告Y(註:男性准教授)により宗教を理由にしたパワハラあるいはアカハラ的な発言がなされるなど、被告佐賀大学によるCARPや統一協会に対するカルト対策を攻撃するための材料を得ることを目的として、同日、被告Yと面談し、本件発言を含む被告Yの発言を録音したものと推認するのが相当である。(原審判決21頁)
一審原告らは、控訴審において、被告Y(註:男性准教授)の発言が政教分離に違反するものだ!と新たな主張を展開しましたが、退けられています。