カテゴリー「刑事弁護を考える」の記事

【松井武】【オウム事件】松本死刑囚弁護人を懲戒処分=業務停止1カ月、趣意書不提出で-第二東京弁護士会【麻原彰晃】【松本智津夫】

松本死刑囚弁護人を懲戒処分=業務停止1カ月、趣意書不提出で-第二東京弁護士会

 オウム真理教元代表松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚(54)控訴審弁護団の松井武弁護士について、第二東京弁護士会は30日までに、「期限内に控訴趣意書を提出しなかったことは、弁護士としての品位を失うべき非行に当たる」として、業務停止1カ月の懲戒処分とした。同弁護士会の懲戒委員会の多数意見。処分は27日付。
 松本死刑囚は、控訴趣意書の不提出により控訴が棄却され、2006年9月に死刑が確定。当時の東京高裁事務局長が07年、控訴審を担当した松井弁護士ら2人について懲戒請求していた。
 処分理由で同弁護士会は「提出期限の順守は弁護人としての基本的な職務」とした上で、松井弁護士が遅延の事情を説明しないまま審理を受ける機会を失わせ、被告の死刑を確定させた行為が、弁護士としての品位を失わせたとした。
 同弁護士会によると、委員には松本死刑囚の訴訟能力について専門家の意見を求めるなど相応の弁護活動を行っていたとして、戒告にとどめるべきだとの意見もあったという。
 松井弁護士は「裁判所という国家機関が処分を請求するのはおかしい」と主張したが、懲戒委員会は「請求は(事務局長が)個人として行った」と判断。「松本死刑囚と意思疎通できず、提出できないやむを得ない理由があった」との反論も退けた。
 主任弁護人だった松下明夫弁護士は昨年9月、仙台弁護士会から戒告処分とされた。松下弁護士によると、処分後に日弁連へ不服を申し立てたが、結論は出ていないという。
 松井弁護士の話 到底承服することはできない。戒められるべきは、東京高裁である。(2009/07/30-20:23)
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戒告で済ませた仙台弁護士会よりはましですが、業務停止1か月はあまりにも軽いです。
被告人の生命がかかっている死刑事件において無謀なチキンレースを挑み、2度目の実体審理を受ける機会を奪い、死刑を確定させた。かつ、無自覚・無反省。
刑事弁護人の風上にもおけません。

<関連過去記事>
松井武弁護士の行為の問題性については、過去記事をご参照下さい。

【オウム事件】オウム・松本死刑囚弁護人に「懲戒相当」議決 弁護士会【麻原彰晃】【松本智津夫】

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【閑話休題】当番弁護士と出動したら、「海賊」と接見する日が来るのか?

重大犯罪では日本に移送=海賊逮捕の場合-海保

 ソマリア沖の海賊対策で、海上保安庁は捜査隊員8人を海上自衛隊の護衛艦に同乗させた。司法警察員として、海賊を拘束した場合の捜査手続きに当たる。
 海保は、海賊の襲撃を受け、日本人が重傷を負ったり死亡したりした重大犯罪の場合、海賊を日本に移送して立件する方針。容疑者は護衛艦のヘリコプターなどでいったんイエメンなどの近隣国に運び、その後、民間機などで日本に移送する方向だ。

時事通信(2009/03/30-19:22)
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日本に移送して立件するということは、当然、弁護士が必要になる訳です。
ガラス板越しに、海賊さんとお目にかかる日が来るのでしょうか?

立件と言いますが、日本の刑事訴訟法は身柄拘束のための時間制限がとても厳格です。
現行犯逮捕したとして、警察(含む海上保安庁)レベルで身柄を拘束できるのは48時間・・・。
48時間以内に身柄つきで送検をしなくてはなりません。送検された検察官は24時間以内に勾留請求をして裁判官から勾留状を発布してもらわなくてはなりません。

ソマリア沖から日本まで間に合うのでしょうか?
刑事訴訟法206条は、「やむを得ない事情」がある場合には、例外を認めてはいますが(※)、ソマリア案件について毎回「やむを得ない事情」があると認められるでしょうか?もし、「やむを得ない事情」が認められなければ、釈放することになりますが、どうやって釈放するのでしょうか・・・。

(※)熊本で逮捕した被疑者を旭川まで護送するのに51時間かかったことについて、「やむを得ない事情」として認めた裁判例がありますが(旭川地方裁判所昭和42年5月13日決定)、捜査機関の都合ではダメで客観的な事情が必要なので、弁護人の立場から争うことは色々とありそうです。

(参考条文:とっても重要な条文です。)
第203条  司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
○2  前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。
○3  司法警察員は、第37条の2第1項に規定する事件について第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第37条の3第2項の規定により第31条の2第1項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
○4  第1項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

第204条  検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○2  検察官は、第37条の2第1項に規定する事件について前項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第37条の3第2項の規定により第31条の2第1項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
3  第1項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
4  前条第2項の規定は、第1項の場合にこれを準用する。

第205条  検察官は、第203条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
○2  前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から72時間を超えることができない。
○3  前2項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○4  第1項及び第2項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○5  前条第二項の規定は、検察官が、第37条の2第1項に規定する事件以外の事件について逮捕され、第203条の規定により同項に規定する事件について送致された被疑者に対し、第1項の規定により弁解の機会を与える場合についてこれを準用する。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。

第206条  検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて前3条の時間の制限に従うことができなかつたときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留を請求することができる。
○2  前項の請求を受けた裁判官は、その遅延がやむを得ない事由に基く正当なものであると認める場合でなければ、勾留状を発することができない。

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<光母子殺害>橋下氏に賠償命令 元少年の弁護士への発言で

<光母子殺害>橋下氏に賠償命令 元少年の弁護士への発言で

 

山口県光市の母子殺害事件(99年)を巡り、橋下徹弁護士(現・大阪府知事)のテレビ番組での発言で懲戒請求が殺到し業務に支障が出たなどとして、被告の元少年の弁護士4人(広島弁護士会)が計1200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2日、広島地裁であった。橋本良成裁判長は「橋下氏の発言と懲戒請求との間に因果関係があることは明らか」として橋下氏に1人当たり200万円、計800万円の支払いを命じた。

(中略)

橋下氏側は「懲戒請求は(請求者の)自発的意志に基づくもの」として発言との因果関係を否定していた。

 判決は、名誉棄損について「原告の客観的評価を低下させる」などと認定。発言と損害の因果関係については「番組放送前に0件だった原告への懲戒請求が放送後に急増したのは、発言が視聴者に懲戒請求を勧めたためと認定できる」と指摘。「弁護団が元少年の主張を創作したとする証拠はなく、橋下氏の憶測に過ぎない」などと発言は違法と断じた。

 また、弁護士の役割について「被告のため最善の弁護活動をする使命がある」とし、「弁護団が非難を受ける筋合いではない。橋下氏は弁護士として当然これを知るべきだった」と批判した。

(中略)


<判決骨子>

◆名誉棄損にあたるか

 懲戒請求を呼びかける発言は、原告の弁護士としての客観的評価を低下させる。

◆懲戒制度の趣旨

 弁護士は少数派の基本的人権を保護すべき使命も有する。多数から批判されたことをもって、懲戒されることがあってはならない。

◆発言と損害の因果関係

 発言と懲戒請求の因果関係は明らか。

◆損害の有無と程度

 懲戒請求で原告は相応の事務負担を必要とし、精神的被害を被った。いずれも弁護士として相応の知識・経験を有すべき被告の行為でもたらされた。

 ◇「根拠ない請求」は違法=解説

 テレビを通じて懲戒請求を促した発言の違法性が問われた裁判で、広島地裁は橋下氏が単なるコメンテーターではなく、懲戒請求の意味を熟知した弁護士だったことで極めて厳しい判断を示した。また光母子殺害事件報道についても、弁護団が「一方的な誹謗(ひぼう)中傷の的にされた」として苦言を呈した。

 根拠がないことを知りながら懲戒請求するのは違法とした最高裁判決(07年4月)があり、個々の請求者には根拠を調査・検討する義務がある。原告側によると、今回の請求の中には署名活動感覚で出されたものが多く含まれていた。橋下氏は視聴者に呼びかけながら自らは請求しなかったが、判決は橋下氏が弁護士である以上「根拠を欠くことを知らなかったはずはなく、不法行為に当たる」と断じた。

 弁護士法では、懲戒請求は弁護士の品位を保つためにあり、数を頼んで圧力を掛けることは想定していない。懲戒請求で弁護活動が萎縮(いしゅく)すれば被告の権利に影響が出る。それゆえ最高裁判決も「根拠のない請求で名誉、信用などを不当に侵害されるおそれがある」と請求の乱用を戒めている。

 報道姿勢に関しては、問題の番組は録画にもかかわらず、発言をそのまま放送した。専門家は「弁護団の主張に違和感があっても、『気に入らないから懲らしめろ』では魔女狩りと変わらない。冷静な議論をすべきだった」と警鐘を鳴らす。橋下氏と同時に、メディアの責任も問われた。【矢追健介】

10月2日10時22分配信 毎日新聞
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○国民に懲戒請求という制度の存在ないし意義を説明することと、特定の弁護士に対する懲戒請求を呼びかけることは全くの別物なので、当然の結論ではないでしょうか。

○弁護士の職責が少数者の人権擁護を目的とすることも多いこと、世論、多数派の意見から独立してその職責を行う必要性があることを裁判所が正面から受け止めたことは高く評価します。

○もう一つ、重要なのは、

弁護団が元少年の主張を創作したとする証拠はなく、橋下氏の憶測に過ぎない

という認定です。弁護団の「元少年の主張創作疑惑」は裁判を通じて晴れたとも言えます。光市弁護団の名誉も幾分か回復されたと言えるでしょう。

○橋下徹弁護士自身も大阪弁護士会に対する懲戒請求を受けていた筈です。この判決は、大阪弁護士会の判断に対しても影響すると思います。弁護士会の判断が注目されるところです。

○「懲戒請求は(請求者の)自発的意志に基づくもの」という反論は、橋下徹発言の影響力を考えれば、責任転嫁以外の何物でもありません(個々の懲戒請求者について不法行為が成立することを否定する趣旨ではありません)。霊感商法や先物被害事件における加害者側の反論を彷彿とさせるものです。

○同業者としては、橋下徹弁護士自身が提出した答弁書や準備書面の内容を読んでみたいと思います。


<参照条文 弁護士法>
(懲戒事由及び懲戒権者)
第56条 弁護士及び弁護士法人は、この法律又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。
2 懲戒は、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会が、これを行う。
3 弁護士会がその地域内に従たる法律事務所のみを有する弁護士法人に対して行う懲戒の事由は、その地域内にある従たる法律事務所に係るものに限る。

(懲戒の種類)
第57条 弁護士に対する懲戒は、次の四種とする。
 一 戒告
 二 二年以内の業務の停止
 三 退会命令
 四 除名
2 弁護士法人に対する懲戒は、次の四種とする。
 一 戒告
 二 二年以内の弁護士法人の業務の停止又はその法律事務所の業務の停止
 三 退会命令(当該弁護士会の地域内に従たる法律事務所のみを有する弁護士法人に対するものに限る。)
 四 除名(当該弁護士会の地域内に主たる法律事務所を有する弁護士法人に対するものに限る。)
3 弁護士会は、その地域内に従たる法律事務所のみを有する弁護士法人に対して、前項第二号の懲戒を行う場合にあつては、その地域内にある法律事務所の業務の停止のみを行うことができる。
4 第二項又は前項の規定の適用に当たつては、日本弁護士連合会は、その地域内に当該弁護士法人の主たる法律事務所がある弁護士会とみなす。

(過去記事)
橋下弁護士を提訴へ 光母子で「懲戒呼び掛け」

【続】橋下弁護士を提訴へ 光母子で「懲戒呼び掛け」

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【戒告は】松本死刑囚の弁護人を戒告 職務に反したと弁護士会【軽い】

松本死刑囚の弁護人を戒告 職務に反したと弁護士会

 オウム真理教の松本智津夫死刑囚(53)=教祖名麻原彰晃=の控訴趣意書を弁護人2人が期限までに提出しなかった問題で、仙台弁護士会は24日、弁護人の1人で懲戒請求された松下明夫弁護士を戒告の懲戒処分にした。

 処分理由は「弁護人としての基本的かつ重大な職務に反するもので、弁護士としての品位を欠いた」としている。

 同弁護士会の綱紀委員会は昨年「懲戒相当」と議決し、懲戒委員会が審査を進めていた。

 もう1人の弁護人、松井武弁護士については、所属する第2東京弁護士会の懲戒委員会が懲戒処分にすべきかどうかを検討している。

 松下、松井両弁護士は松本死刑囚の1審判決後に弁護人となったが、控訴趣意書を期限の2005年8月末までに東京高裁に提出しなかった。高裁は06年3月、控訴棄却を決定、その後、死刑が確定した。

 2人の懲戒は、当時の東京高裁事務局長や、教団による被害者の滝本太郎弁護士らが請求した。

 松下弁護士側は今年4月、活動の妥当性を示そうと、仙台弁護士会の懲戒委に松本死刑囚の精神鑑定を求めていた。

(東京新聞 2008年9月24日 20時51分 共同通信配信)
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結論;戒告では軽すぎます。

松下明夫弁護士による反論
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麻原氏控訴審弁護団に懲戒請求 その真の狙いは何か?

松下明夫弁護士の反論の要点は、

麻原氏の刑事事件は死刑判決というこれ以上ない重大な事件であり、同氏の訴訟能力、精神病は、死刑判決が確定とされて正しかったのか、そして訴訟能力を争った弁護人の活動が誤りであったのか、非行として指弾されるべきものであるのかという問題に他ならない。
松下弁護士側は今年4月、活動の妥当性を示そうと、仙台弁護士会の懲戒委に松本死刑囚の精神鑑定を求めていた。


という記述を見るとわかりやすいのですが、下線を引いた

そして訴訟能力を争った弁護人の活動が誤りであったのか、非行として指弾されるべきものであるのかという問題に他ならない。
松下弁護士側は今年4月、活動の妥当性を示そうと、仙台弁護士会の懲戒委に松本死刑囚の精神鑑定を求めていた。

という個所は争点のすり替えに他なりません。

本件における争点は、訴訟能力を争うという弁護活動の方針ではなく、その争い方です。

死刑判決の早期確定、「死刑執行による強制される死」という究極のリスクを負担するのは弁護人ではなく、被告人です。

裁判所が依頼した鑑定人による鑑定結果が「訴訟能力有り」という結論を出した時点で、結論に納得するしないはともかくとして、控訴趣意書を提出すべきでした。訴訟能力は公判においても争うことが出来るのです。裁判所に対して改めて精神鑑定の請求をし、併せて、事実関係についても徹底的に争う機会もあったのです。東京高裁は、控訴趣意書提出期間後も直ちに控訴を棄却することなく、翻意の機会を与えていたのです。
東京高裁が決定により控訴を棄却しないだろう、という読みは明らかに甘すぎました。


それにもかかわらず、当初の戦術を変更することなく、被告人を危険すぎるチキンレースに参加させ、負けて、控訴審において審理を受ける機会を結果的に奪って死刑という究極の刑罰を確定させてしまった以上、戒告では明らかに軽すぎます。
滝本太郎弁護士は日弁連に異議申し立てをされるようなので、日弁連の判断が注目されます。

(過去記事)

【死刑確定】麻原彰晃こと松本智津夫被告の特別抗告棄却

【オウム事件】オウム・松本死刑囚弁護人に「懲戒相当」議決 弁護士会【麻原彰晃】【松本智津夫】

(弁護士に対する懲戒手続きの概要)
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弁護士および弁護士法人(以下「弁護士等」といいます。)は、弁護士法や所属弁護士会・日弁連の会則に違反したり、所属弁護士会の秩序・信用を害したり、その他職務の内外を問わず「品位を失うべき非行」があったときに、懲戒を受けます(弁護士法56条)

<参照条文>
(刑事訴訟法)
第386条 左の場合には、控訴裁判所は、決定で控訴を棄却しなければならない。
1.第376条第1項に定める期間内に控訴趣意書を差し出さないとき。
2.控訴趣意書がこの法律若しくは裁判所の規則で定める方式に違反しているとき、又は控訴趣意書にこの法律若しくは裁判所の規則の定めるところに従い必要な疎明資料若しくは保証書を添附しないとき。
3.控訴趣意書に記載された控訴の申立の理由が、明らかに第377条乃至第382条及び第383条に規定する事由に該当しないとき。
2 前条第2項の規定は、前項の決定についてこれを準用する。

(刑事訴訟規則)
第238条
控訴裁判所は、控訴趣意書を差し出すべき期間経過後に控訴趣意書を受け取つた場合においても、その遅延がやむを得ない事情に基くものと認めるときは、これを期間内に差し出されたものとして審判をすることができる。

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「心神喪失で不起訴」一転、「完全責任能力あり」起訴

「心神喪失で不起訴」一転、「完全責任能力あり」起訴

母親を包丁で切りつけて死亡させながら、心神喪失を理由に不起訴処分になった無職の男(41)が今年7月、「心神喪失者医療観察法」の審判で完全責任能力があったと判断され、一転、殺人罪などで東京地裁に起訴されていたことがわかった。

 男に対しては精神鑑定が計3回実施され、「心神耗弱」「心神喪失」「完全責任能力あり」とバラバラの判断が示される異例の経過をたどっており、鑑定のあり方を巡っても論議を呼びそうだ。

 男は昨年12月、東京都内の自宅で、寝ていた母親(当時71歳)と兄を包丁で切りつけ、警視庁に殺人未遂の現行犯で逮捕された。近所の住民によると、男は近所とのつきあいもなく、自宅で引きこもりがちだったという。

 男に通院歴はなかったが、東京地検は、精神状態を詳しく調べるため、鑑定留置し、正式鑑定を実施。その結果、統合失調症に近い精神障害で、責任能力が著しく減退した心神耗弱と判断された。

 同地検でさらに、別の医師に簡易鑑定を依頼したところ、今度は心神喪失とされた。このため同地検は今年5月、心神喪失を理由に男を不起訴処分にし、心神喪失者医療観察法に基づく審判を東京地裁に申し立てた。

 しかし、審判での鑑定の結果、完全責任能力があったと判断されたため、同地裁が今年7月、審判申し立てを却下。これを受け、同地検が7月に起訴した。

 弁護人によると、男は「犯行を覚えていない」「殺せと言う声がした」などと話しているといい、今月16日に始まった「公判前整理手続き」では、心神喪失を理由に無罪を主張した。

9月22日14時39分配信 読売新聞
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 正式名称は「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」です。

 裁判所での手続(審判)は、裁判官と精神保健審判員(精神医療の学識経験者)各1名の合議体で取り扱うことになっており、対象者(「被告人」とは呼びません)は、弁護士である付添人を選任することができます。東京地方裁判所では、検察官から審判の申し出があった事案すべてについて国選で付添人をつける方針にしており、東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会に所属する弁護士の中から選任されます。

 私は、付添人として選任されたことが何回かあります。今も一件国選付添人の案件を担当しています。
 実は、検察官が責任無能力(心神喪失)、あるいは、限定責任能力(心神耗弱)として不起訴にした案件について審判手続において「責任能力あり」として却下決定が出ることは珍しくありません。
 付添人活動をしている中で感じたことは、検察官の責任能力の判断は結構いい加減だということです。付添人に選任されてから記録を読んだ時点で、「何故、心神喪失という判断をしたのか?」と思ったことも一度ならずあります。捜査段階における鑑定(簡易鑑定)は、場合によっては簡単な問診だけで判断が出ている場合も珍しくはないのです。その場合、往々にして、「精神疾患有り=責任能力なし」という判断が導かれています。

 が、精神疾患有り=「責任無能力(心神喪失)、あるいは、限定責任能力(心神耗弱)」ではありません。
 ① 事物の是非・善悪を弁別出来るか?
 ② ①を前提として、是非・善悪の弁別に従って行動する能力があるか?
という2段階の要件のいずれかを欠く場合に責任無能力(心神喪失)となるのです。

 「責任無能力(心神喪失)、あるいは、限定責任能力(心神耗弱)」について(?)な事案を引き受けた弁護士には固有の悩みがあります。それは、対象者にとっての「最善の利益とは何か?」という問題です。

○審判の結果⇒責任無能力(心神喪失)⇒精神病院での強制的な治療
○審判の結果⇒責任能力あり      ⇒審判の却下⇒刑事裁判⇒懲役

 刑務所と精神病院とどっちが対象者にとっての「最善の利益」なんでしょうか?
 非常に悩ましいですが、病気ではないにも関わらず治療を受けさせられること自体が著しい人権侵害だと思うので、審判の却下を求める活動をすることにしています。

 もう一つ、 「責任無能力(心神喪失)、あるいは、限定責任能力(心神耗弱)」であっても、強制治療の対象とはならない場合があります。
それは、治療しても効果が見込めない場合(治療の対象とはならない場合)です。参考条文の42条の下線部を見て頂きたいのですが、この法律は、治療して改善の見込みがあることが大前提となっています。治療しても改善の見込みがない場合には、刑事処分にも、この法律による医療の対象にもならないのです。

(参考条文)

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律

(申立ての却下等)
第四十条  裁判所は、第二条第三項第一号に規定する対象者について第三十三条第一項の申立てがあった場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由に該当するときは、決定をもって、申立てを却下しなければならない。
一  対象行為を行ったと認められない場合
二  心神喪失者及び心神耗弱者のいずれでもないと認める場合
2  裁判所は、検察官が心神喪失者と認めて公訴を提起しない処分をした対象者について、心神耗弱者と認めた場合には、その旨の決定をしなければならない。この場合において、検察官は、当該決定の告知を受けた日から二週間以内に、裁判所に対し、当該申立てを取り下げるか否かを通知しなければならない。

(入院等の決定)
第四十二条  裁判所は、第三十三条第一項の申立てがあった場合は、第三十七条第一項に規定する鑑定を基礎とし、かつ、同条第三項に規定する意見及び対象者の生活環境を考慮し、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める決定をしなければならない。
一  対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合 医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定
二  前号の場合を除き、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合 入院によらない医療を受けさせる旨の決定
三  前二号の場合に当たらないとき この法律による医療を行わない旨の決定
2  裁判所は、申立てが不適法であると認める場合は、決定をもって、当該申立てを却下しなければならない。

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「光市事件の死者は1.5人」 准教授の記述で青山大学長が謝罪

「光市事件の死者は1.5人」 准教授の記述で青山大学長が謝罪

4月25日22時33分配信 産経新聞

 青山学院大学(伊藤定良学長、東京都渋谷区)は25日、同大学の教員が個人HP(ホームページ)に記した記述が不適切だったとして、学長名義での謝罪文を大学HPに掲載した。

 問題となった記述は、国際政治経済学部の瀬尾佳美准教授(環境経済学)の個人HP内のもの。この中で「私は死刑廃止論者ではない」としつつも「少年に対する死刑には原則反対」と主張、山口県光市の母子殺害事件で殺人や強姦致死などの罪に問われた元会社員の被告(27)=犯行当時(18)=に死刑を科すのは重すぎるとして、「最低でも永山基準くらいをラインにしてほしいものだ。永山事件の死者は4人。対してこの事件は1.5人だ」「まったくの個人的意見だが赤ん坊はちょっとしたことですぐ死んでしまうので『傷害致死』の可能性は捨てきれないと思っている」などと持論を展開した。

 さらに、被告弁護団に対する懲戒処分請求を呼びかけた現・大阪府知事の橋下徹弁護士について「大阪府知事なんかエロノックだって務まったくらいですから誰でもかまいません。ま、人間の廃物利用ってところでちょうどいいじゃないですか」と述べたり、差し戻した最高裁の判事の妻について「おそらく専業主婦で、TVばっかり見ていたため洗脳され、夫の仕事にも影響したのだろう」などと書き、ネット上で批判の声が上がっていた。

 この騒動を受け、伊藤学長は「当該教員の記述は適切でなく、また関係者のみなさまに多大なご迷惑をおかけしたことはまことに遺憾であり、ここに深くお詫び申し上げます」と謝罪、「今後このようなことが繰り返されることのないよう努めてまいります」とする声明を大学HPに掲載した。
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おそらく、青山学院に電凸でもして、「上司を呼べ!」みたいな対応を求めた人がいたのではないかと思いますが、大学当局は毅然とした対応をすれば良かったのだと思います。瀬尾佳美准教授の意見の是非はともかく、プライベートなブログの内容について学長が謝罪する理由も筋合いもありません。

ブログを見た人が批判をするのは当然だと思いますし、「人間の廃物利用」呼ばわれされた人がそれなりの対応を講じることはともかく、第三者が大学に圧力をかけるのはどうかと思いますし、大学がそれに屈するのもどうかと思います。学長として謝罪することは、瀬尾佳美准教授が論旨を撤回しない場合、何らかの処分の対象となりうることを前提としているのではないでしょうか?自由な議論を重視すべき大学のとるべき対応とは思えません。

ちなみに、問題となった瀬尾佳美准教授の記事のうち、「1.5人」、「先進国人というより中国人に近い」、「大阪府知事なんかエロノックだって務まったくらいですから誰でもかまいません。ま、人間の廃物利用ってところでちょうどいいじゃないですか」、「おそらく専業主婦で、TVばっかり見ていたため洗脳され、夫の仕事にも影響したのだろう」など、無神経、不見識ないしは差別的としか言いようがない表現はあるものの、当該記事の論旨について全体としてみれば、賛成するかどうかは別として、傾聴に値する一つの見識を述べているとは思います。

私は、法律家として、光市の事件は従前の実務基準であれば、死刑相当事案ではなく、無期相当事案であったと思いますし、仮に、赤ちゃんに対する関係で傷害致死しか成立しないのであれば、現在の最高裁の基準であっても無期相当の事案だと思いますので、死刑相当事案ではないという瀬尾佳美准教授の論旨が的外れだとは思いません。

New! 080427 13:24 若干の補足
⇒ 下線部を書き足しました。「全体として」は、瀬尾准教授のブログ全体ではなく、当該記事を「全体として」見ればという意味で書いています。瀬尾准教授のブログのその他の記事については、私の記事は言及していません。分かり難い書き方をしてしまいました。以後、気をつけます。

New! 080427 15:49 青山学院のHPを見直してみて、今更ながら、追加
青山学院の「本学教員のブログ上の記述に関する学長見解」コメントのうち、「今後このようなことが繰り返されることのないよう努めてまいります。」というのは、大学当局による検閲の予告でしょうか?大学がこんなことを公然と発表することの問題性をマスコミが取り上げないのが不思議です。

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【怒】安田弁護士に逆転有罪=ほう助罪で罰金50万円-強制執行妨害事件・東京高裁

安田弁護士に逆転有罪=ほう助罪で罰金50万円-強制執行妨害事件・東京高裁

 旧住宅金融専門会社(住専)大口融資先だった不動産会社の資産隠し事件で、強制執行妨害罪に問われた弁護士安田好弘被告(60)に対する控訴審判決が23日、東京高裁であり、池田耕平裁判長は一審無罪判決を破棄、ほう助罪が成立するとして罰金50万円を言い渡した。弁護側は即日上告した。
 池田裁判長は争点だった関係者の供述について、「核心部分は十分に信用できる」と述べ、被告の関与を認定。一審判決について「事実を誤認したと言わざるを得ない」とした。
 被告の犯意については、「強制執行を免れるための仮装の財産隠匿行為と認識していた」と判断。「差し押さえを困難にするばかりでなく、債権者からの追及をかわそうとする方策だった」と厳しく批判した。
 一方で、資産隠しは最終的に会社側が決断、実行しており、被告は助言する立場にすぎなかったとして、共謀の成立を否定。「ほう助犯の限度で罪責を負うにとどまる」とした。

時事通信 2008/04/23-21:06
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一応、安田弁護団の一員なので、当日、判決言い渡しを聞いていました。3時間50分は長いですが、「?」という疑問を和限りなく、脳裏において差し挟みながら弁護人席に座っていました。

全国の高等裁判所の中でも特に東京高裁の刑事部は検察官よりの判断をするところですが、ひどい判決でした。判決文はまだ当分の間手に入らないので(※)、入手し次第、もう少しコメントをするかもしれません。

(※)刑事事件の場合、判決文に基づく言い渡しをする必要がありません。判決文の入手は数ヵ月後になることも 珍しくはありません。

<刑事訴訟規則>
第35条 裁判の宣告は、裁判長がこれを行う。
2 判決の宣告をするには、主文及び理由を朗読し、又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げなければならない。
3 法第二百九十条の二第一項又は第三項の決定があつたときは、前項の規定による判決の宣告は、被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。

<民事訴訟法>
第252条 判決の言渡しは、判決書の原本に基づいてする。

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【オウム事件】オウム・松本死刑囚弁護人に「懲戒相当」議決 弁護士会【麻原彰晃】【松本智津夫】

オウム・松本死刑囚弁護人に「懲戒相当」議決 弁護士会


 仙台弁護士会の綱紀委員会が、オウム真理教元代表の松本智津夫死刑囚(52)の控訴審で主任弁護人を務めた同会所属の松下明夫弁護士について「懲戒相当」と議決していたことが30日、分かった。具体的な処分の内容については同会の懲戒委員会が今後、審査する。

 懲戒請求は今年3月、東京高裁の事務局長(当時)が、松下弁護士らが期限内に松本死刑囚の控訴趣意書を提出しなかったことについて「迅速な審理を妨げ、被告人の利益を著しく損なった」として申し立てていた。

朝日新聞 
2007年10月30日19時07分
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色々と議論があるようですが、仙台弁護士会綱紀委員会の意見書の
「本件においては、控訴趣意書の提出期限の遵守は、弁護人としての基本的な職務であり、期限までに控訴趣意書を提出しないこと自体が、弁護人の職責に反する行為であって、特段の事情がない限り、弁護士法第56条1項に定める非行に該当するものと考えられるところ、被請求者は、特段の事情がなく、控訴趣意書を提出せず、控訴を棄却されるといった結果を生じさせた。被請求者の行為は、弁護士法第58条第4項の「事案の軽重その他情状を考慮して懲戒すべきでないことが明らかである」とも認められず、同条第3項に基づき懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当と判断されることから、主文の通り、議決する。」(滝本太郎弁護士のブログより)というくだりは非常に説得力があると思います。


 訴訟能力を争うという訴訟戦術に問題があるとは思いません。
 また、拘置所において松本智津夫死刑囚(当時は被告人)と面会してしまい、あるいは、中立性について疑義のある鑑定人を選任した東京高裁須田賢裁判長の対応に問題はあるとも思います。

 しかしながら、死刑判決の早期確定というリスクを負担するのは弁護人ではなく、被告人です。

 裁判所が依頼した鑑定人による鑑定結果が「訴訟能力有り」という結論を出した時点で、結論に納得するしないはともかくとして、控訴趣意書を提出すべきでした。東京高裁が決定により控訴を棄却しないだろう、という読みは明らかに甘すぎるものです。控訴趣意書を提出し、実体審理に入ってからも訴訟能力を争点にすることは可能な訳ですから。

 それにもかかわらず、当初の戦術を変更することなく、被告人を危険すぎるチキンレースに参加させ、そして負けてしまい、控訴審における実体審理を受ける機会を結果的に奪って死刑という究極の刑罰を確定させてしまった以上は、やむを得ない結論ではなかったかと思います。

<関連過去ログ>

【死刑確定】麻原彰晃こと松本智津夫被告の特別抗告棄却

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【死刑執行】「死刑執行、自動的に進むべき」 鳩山法相が提言【6ヶ月】

「死刑執行、自動的に進むべき」 鳩山法相が提言

 死刑執行命令書に法相が署名する現在の死刑執行の仕組みについて、鳩山法相は25日午前の記者会見で「大臣が判子を押すか押さないかが議論になるのが良いことと思えない。大臣に責任を押っかぶせるような形ではなく執行の規定が自動的に進むような方法がないのかと思う」と述べ、見直しを「提言」した。

 現在は法務省が起案した命令書に法相が署名。5日以内に執行される仕組みになっている。

 鳩山法相は「ベルトコンベヤーって言っちゃいけないが、乱数表か分からないが、客観性のある何かで事柄が自動的に進んでいけば(執行される死刑確定者が)次は誰かという議論にはならない」と発言。「誰だって判子ついて死刑執行したいと思わない」「大臣の死生観によって影響を受ける」として、法相の信条により死刑が執行されない場合がある現在の制度に疑問を呈した。

2007年09月25日11時41分 朝日新聞
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 「誰だって判子ついて死刑執行したいと思わない」とおっしゃいますが、刑務官の立場に立てば「誰だってレバーを引っ張って死刑執行したいと思わない」となるでしょうし、裁判官や検察官だって死刑を求刑したり、死刑判決を書くのは嫌でしょう。

 まあ、その点はさておき、一般的に刑罰の執行は検察官が指揮します(刑事訴訟法472条1項)。例外的に、刑事訴訟法475条1項は、死刑の執行は法務大臣の命令によるとしています。これは、死刑という刑罰が峻厳で、いったん執行がなされれば回復不可能であることから、慎重を期する必要があり、法務大臣は内閣の一員としての立場から、政治的・人道的視点から恩赦の可能性を含めてより慎重な判断をすることが期待されているためと解されています。
 また、同条2項が判決確定の日から6ヶ月以内に命令を出すように定めている転については、訓示規定(違反しても違法の問題を生じない規定)と解されています(参考判例参照)。

  法務大臣に対し、死刑執行命令を出すように促す死刑執行に関する上申(後述条文参照)がなされるに先立ち、法務省内部においても相当に慎重な検討が行われるようです。第三者的な立場からの検討ではないので、十分とはいえませんし、限界もあると思いますが、実際に死刑が執行されるまでの間に法務省内部においてどのような検討が行われるのかは、昭和52年4月27日の衆議院法務委員会において伊藤栄樹氏(後の検事総長)が明らかにしていますので、興味のある方は参照されて下さい。

法務委員会の議事録

 結論から言えば、法務大臣が熟慮を重ねて6ヶ月の期間を超過することはなんら問題はなく、むしろ、法務大臣が誠実かつ慎重にその権限を行使していると評価すべきなのです。仮に、死刑判決の確定から6ヶ月以内に順次刑の執行がなされていれば、死刑再審無罪4事件の当事者は、いずれもえん罪が明らかとされることなく、処刑されていたことは間違いありませんし、異議申し立てで覆ったものの、一度は再審開始決定が認められた名張事件の当事者も同様でしょう。件数は少ないですが、死刑囚に対し、恩赦による減刑が認められたこともあります。
 提言ではなく、法務大臣の職責を弁えない「妄言」に類されるべき発言でしょう。

(参考判例)
 参考までに東京地方裁判所平成10年3月20日事件の判決を紹介します。
 この事件は、死刑囚が死刑確定の日から6ヶ月以上経っているにもかかわらず、死刑を執行しないことが違法であると主張して、国を被告として、国家賠償請求を求めて提訴した事案について、東京地方裁判所は、「思うに、同項の趣旨は、同条1項の規定を受け、死刑という重大な刑罰の執行に慎重な上にも慎重を期すべき要請と、確定判決を適正かつ迅速に執行すべき要請とを調和する観点から、法務大臣に対し、死刑判決に対する十分な検討を行い、管下の執行関係機関に死刑執行の準備をさせるために必要な期間として、6か月という一応の期限を設定し、その期間内に死刑執行を命ずるべき職務上の義務を課したものと解される。したがって、同条2項は、それに反したからといって特に違法の問題の生じない規定、すなわち法的拘束力のない訓示規定であると解するのが相当である。」との判断を示して、死刑囚の請求を棄却しています。なお、この裁判において、国側も、刑事訴訟法472条2項は「訓示規定」であると主張していますし、この解釈について法律家の間ではあまり異論のないところだと思います。


(参照条文)

【日本国憲法】
第73条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
1.法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
2.外交関係を処理すること。
3.条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
4.法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
5.予算を作成して国会に提出すること。
6.この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
7.大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。


【刑事訴訟法】
第472条 裁判の執行は、その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官がこれを指揮する。但し、第70条第1項但書の場合、第108条第1項但書の場合その他その性質上裁判所又は裁判官が指揮すべき場合は、この限りでない。
2 上訴の裁判又は上訴の取下により下級の裁判所の裁判を執行する場合には、上訴裁判所に対応する検察庁の検察官がこれを指揮する。但し、訴訟記録が下級の裁判所又はその裁判所に対応する検察庁に在るときは、その裁判所に対応する検察庁の検察官が、これを指揮する。

第475条 死刑の執行は、法務大臣の命令による。
2 前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。

執行事務規程(法務省訓令)
(死刑執行に関する上申)
第9条 刑訴第472条の規定により刑の執行指揮をすべき検察官(以下「執行指揮検察官」という。)の属する検察庁の長は,死刑の判決が確定したときは,法務大臣に対し,死刑執行上申書(様式第4号)に訴訟記録(裁判所不提出記録を含む。)及びその裁判書の謄本2部を添えて提出し,死刑執行に関する上申をする。

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【続】橋下弁護士を提訴へ 光母子で「懲戒呼び掛け」

橋下弁護士を提訴へ 光母子で「懲戒呼び掛け」
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上記記事につきまして、短期間の間にたくさんのコメントを頂きました。

それで、ご意見、ご質問についてご回答をと考えていたのですが、ジャーナリストの江川紹子さんのホームページに私の言いたかったことが殆ど書かれていましたので、ご参照下さい。

刑事弁護を考える~光市母子殺害事件をめぐって

2007.9.20 追記new!

① 刑事弁護というものの本質は、国家権力を背景にした検察官、裁判所だけではなく、既存の制度とか、世論とか、世間の偏見とかいいものとの戦いでもある訳です。
  この点をご理解して頂きたいと思います。

② 自分が被告人になったとして、自分の弁護を担当している弁護人が、世論や被害者に配慮するあまり、徹底的な弁護をしてくれなかったらどう思うのかを考えて見て下さい。

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